「ところで、この兄さんも一緒に連れてきてくれるかい。体を張って助けてくれた命の恩人だ、お礼をしたいからね」

勘治が倒れている男を見ると、さくらが男の背中に手を当てている。なにやら目をつぶってなでているようだ。

「おい、お嬢ちゃん、何やってんだ?」

怪訝(けげん)な顔つきで勘治がさくらを見た瞬間、倒れている男の目がバッと見開いた。男の双眸(そうぼう)は青白く光っているように、力強いものだった。

「お、おい。おめえ大丈夫か? あんだけ痛い目にあったんだから、どこか骨でも折れていねえか」

男は立ち膝をつき、ゆらりと立ち上がろうとした。

「無理はするな。おれが肩を貸すからよ。ゆっくりと歩け」

男はおぼつかない足取りで、黒い道中合羽をふわりとはためかせた。

勘治が男の肩をかつぎながら、お遥とさくらの後をついていった。

直江の津・今町のほぼ真ん中、あけぼの町(ちょう)という通りに出た。

あけぼの町は、旅籠・問屋・海産物屋・菓子屋などがひしめき、今町で一番の賑やかな通りである。四人はその通りにある旅籠の軒先に入った。