「そうですか! もう来ましたか」
「様子見に来たと思うよ。野次馬根性っていう奴だな。来てもいいのだよ。来たらちゃんと応対し、説明すればいい。破産した訳ではない。逃げたり隠れたりすることはない。これから事業を継続していくと決めたのだ。シャッターを開けたということは事業を継続します、という意思表示なのだよ」
松葉がそう言うと、恐怖を隠し怒りに変えていた竹之下の形相(ぎょうそう)が、見る見るうちに、いつもの仕事師の顔に変わっていった。
「そうですね。継続の意思表示ですね。分かりました」
それを聞いていた仙田が、ちょっと、と言って松葉に耳打ちした。
「社長、今の話を朝礼でみんなにされたらどうですか」松葉は、「そうですね」と応えて、朝礼に臨んだ。
先ず松葉は、改めて社員に詫び、そして事業の継続を告げ、今日この日から営業を行うことを宣言し、みんなの協力を求めた。
「今日もシャッターを開けました。シャッターを開けたということは、『松葉工業はこれからも仕事を続けて行きます』という意思表示なのです。
多くの債権者が来るかもしれない、決して恐れることはありません。債権者とちゃんと向き合って話をさせて頂いたらいい。お出でになった全ての債権者を私のところに案内して下さい。
先ずは、お詫び申し上げて、ここに至った経緯については、後日債権者集会で説明させて頂くとしても簡単にでもご説明させて頂きたいと思っています。
そこで、私は同意を求めたりはしません。淡々と事情説明に終わらせてもらおうと思っています。今後のことについては、債権者集会でご承認を頂いてから、お願いしていくつもりです。
先般、債権者集会で再生について債権者の賛同が得られるだろうか、について専務と話 し合いました。専務も、賛同は間違いなく得られます、と断言しました。」