【前回の記事を読む】債権者集会でのみんなの声、あの熱気…なんとか再建するしかない。逃げ場がない。いっそのこと、「岬」から身を投じた方がマシだ。
第1章 債権者集会
そんなこと、どうでもよい
あの熱気に包まれた社員集会の翌日も、松葉は今まで通り7時に会社に行った。誰もまだ来ていない。門扉の前に車を停めて、鍵の掛かった鎖を外し、横引きの門扉を両手で押した。
重い。車輪が錆び付いているようだ。門扉の端を持って力一杯押した。まずい、今度は握った鉄のパイプが錆びていて如何にも折れそうだ。
松葉は、反対側の端から引っ張った。
何とか門扉を開けることができた。
毎朝、開門している島田に苦労を掛けていたな、すまなかったなぁ、と島田の顔を思い浮かべた。島田は、年を取って朝が早くなったと進んで開門役を買って出ていた。島田っ て、本当に気のいい奴だ、今まで何の文句も言わなかった。
彼は、若くして奥さんを亡くし、二人の子供を育て上げ、今は一人で生活していた。朝食はいつも取っているのだろうか。
まだ、誰も来ない。
果たして、社員のみんなは来てくれるだろうか、誰も来なかったらどうしよう、そんな不安の中で、松葉は玄関のシャッターを開けた。
シャッターが開いたのを見計らったかのように、1台の車が玄関の前で停まった。玄関ドアのガラス越しに何か用かな、と覗いた松葉の視線を感じたのか、その車は慌てて走り去った。
どうやら様子を窺っていたみたいだ。専務の仙田がやって来た。
仙田の顔を見るなり、松葉は言った。
「専務、すみません。心配を掛けます」