この司馬さんの「卒業片言」はそれとは明確に書いていませんが、作家になる夢を宣言したと考えられる言葉が綴られていました。
司馬さんは小学生の頃から、作家になる夢を持っていました。そして、その夢を中学校卒業の記念である、「卒業片言」でそれとなく宣言しているのです。
このように、わずか四冊しか残っていない完本の中に司馬さんの作文と「卒業片言」が含まれていました。
このことも奇跡といわざるを得ません。もし、この二冊が他の多くの号と同じく、戦後の混乱で失われていたら、司馬さんの中学校時代を知るすべはまったく存在しないことになっていたのです。
司馬さんは学園に自分の作文や「卒業片言」が現存しているとはご存じなかったでしょう。司馬さんの自宅は空襲で全焼していますし、多くの同窓生の自宅もそうだったかもしれません。
そんな状況の中で、『上宮学園九十年の歩み』という学園史の出版のために今から四十年も前に、時の校長が同窓会に校友会雑誌の寄贈を呼びかけることがなかったら、わずかに残った校友会雑誌もこの数十年間の間に消えてしまっていたかもしれません。
私は全国的な古本屋さんのサイトで二十年以上、校友会雑誌『上宮』を検索していますが、一度もヒットしたことはありません。卒業アルバムがたった一冊見つかったことがあるだけです。
この校友会雑誌『上宮』の二冊は現在、司馬遼太郎記念館に寄贈されています。傷みの少ない第30号が常設展示されていると思いますので、是非ご覧になってください。
第36号は現在、経年劣化で目もあてられない状態です。もともと、用紙がザラ紙のような紙質だった上に、さらに経年劣化で茶色に変色し、ボロボロの状態になってしまいました。