「これで、第二の密室殺人の謎も解けた。後は本人に話を聞くだけだ」
対岸の山稜に沈みかけた夕陽から漏れ出した光が川の漣に反射して、こちら側へと金色の帯を伸ばしていた。西の空はすっかりオレンジ色に光って、その上には深い青色の空間が広がっていた。山本公園の川辺には、こちら側に背を向けて川の流れをじっと見つめている黒い人影が立っていた。
「蒼」
背後から近付いてきた海智と一夏が声を掛けると、蒼はいつものように他人を侮蔑するような目つきで振り返った。或いは夕陽が眩しかったせいかもしれない。眼鏡のフレームにオレンジ色が反射している。
「何だ、お前らか」
そう言うと蒼は再び川面を見つめた。
「今日は体調不良で休みを取ったんじゃないのか? 携帯にも出ないし、自宅に電話してもいないって言うからここじゃないかと思って来てみたんだ」
「俺に何の用だ」
「お前、俺が『探偵ごっこ』をしているって言ったよな。それなら最後まで俺の探偵ごっこに付き合ってくれないか」
「お前、まだそんなことしているのか。いい加減に就職先でも探したらどうだ」
「中村大聖と石川嵐士を殺したのはお前だろ。蒼」
蒼は全く冷静であったが、すぐには口を開かなかった。
「馬鹿馬鹿しい」
「初めはお前がこの事件に関係しているなんて全く思わなかった。何せ他人事には関わらないのがお前の主義だからな。でも一夏から梨杏がお前のことを好きだったって聞いた時に閃いたんだ。蒼、お前も梨杏のことが好きだったんじゃないのか? だからあいつらに復讐したんじゃないのか?」
「何言ってんだ。犯人は信永経子だ。俺の目の前で宇栄原桃加を刺した。本人の遺書だってあっただろう」
「ああ、確かに梨杏、高橋漣、宇栄原桃加を殺したのは経子さんだ。だが、最初の二人は殺していない。
彼女が使ったという非常階段の監視カメラには誰も映っていなかった。だから俺と一夏が見たのは本当の梨杏の姿だったんだ。おそらく経子さんは梨杏が最初の二人の殺人事件に関わっていることを知った。だから彼女の罪を庇うために、あの遺書を残して残りの二人を殺して自らも死を選んだ」
「何を言っているのか分からないが、大聖と嵐士が死んだ日は俺は当直室にいた。四階病棟の階段とエレベーター前には監視カメラがある。どうやって俺に殺人ができるんだ?」
次回更新は8月3日(日)、11時の予定です。