『希望』の構図
構図はどうか。縦横約142×112cmの縦長の画面の下四分の三に、一つの球体の上半分とその最上部に横座りした女性像が描かれている。
視点は両対角線の交点の無限遠にある消失点を水平に見通す位置にある。背景をなすのは空とおぼしき空間であり、これが全面積の約五分の三を占めるはずだが、女性像によってその面積は削られ、正味は五分の二程度が空らしく塗り分けられている。
球体の頂点はおよそ画面の上下左右の中央部にあるが、女性像によって隠れている。球体の幅が画面の左右から若干はみ出る程度あり、球体のほぼ半分から上が画面の底辺から上に配された形だ。半球の頂部中央に横座りする人体のヴォリュームはこの半球の半分程度あるように見える。
右脚の腿が頂点から球体の外縁を覆うように緩やかに斜め右を向いており、膝から下が屈曲して向かって左下方向に垂れ下がる。裸足の右足の指先が底辺の手前十数cm、左下隅から三分の一、つまり40cmほど中央寄りのところまで達している。
臀部から上が半球の頂部から上に出る形だが、それはまるで灯台の頂部にある回転式の投光器部分のような形で上方に突き出て、画面の上端から30cmほど下の位置、つまり縦長の約五分の一を余すところまで達しているのである。
最大の特色
人体の頂点は頭ではなく右肩である。首から上が右頬を上にして右方向に水平に倒れているからである。これが構図上最大の特色であり、それが絵全体の「不安定」とか「危うい」といった印象につながる一つの要因である。
丸みを帯びた背中から、倒れた顔と頭の先までが画布の中央部分で画幅の半分程度を占めているのだが、その背後にまだ何かが空中に突き出ている。人体の後ろに矩形の木枠のようなものが、人体に半分隠れてやや斜めに描かれているのである。
腕より少し細い程度の木の枠だが、その上辺の長さは人体の首の付け根から頭頂までにほぼ等しい。この上辺の両端につながる二辺のうち向かって右に見える方を女性が水平に傾いだ自分の頭の上に添えた左手で握りしめている。