高瀬綾野の霊に捧ぐ
はしがき
ジョージ・フレデリック・ウォッツ[ワッツ]George Frederic Watts (1817-1904)は、英国国営のテイト・ギャラリー(Tate Britain)の所蔵する『希望』Hope(図1) と題された1886年の作品で広く知られ、我が国にも多くの愛好者をもつイギリスの画家である。

図1
この画家は通例、同時代の三人の画家(レイトン、アルマ=タデマ、ポインター)と並んでヴィクトリア朝古典主義のいわば四天王の一人という取り扱いを受ける。
この分類にはそれなりの必然性がないわけではない。というのも彼らはみな、絵画がなんらかの主題を、その視覚表象を通じて、見る者に訴える可能性を追求する、伝統的な絵画観を踏襲する最後の世代に属していたからである。
しかし反面、ウォッツは絵画が思想の表現であり、社会改良と救世的使命を担うべきものであるという信念をもった画家であった。