【前回の記事を読む】"結婚しない選択"と親からのプレッシャー、「赤ちゃんの服を見て『あら可愛い。いつか孫ができたら買ってあげたいわ』って」
訳アリな私でも、愛してくれますか
「今日はお客さん、結構来てくれたみたいだね」
「はい。お祝いの言葉もたくさんいただきました」
社長は上機嫌で、くるみに話しかけてくる。しかしくるみはそろそろ慣れないピンヒールのおしゃれパンプスで靴ずれが痛み出して余裕はない。
「うちには女の子がたくさんいてよかったよ」
「そろそろ会場ですので、ご準備を」
社長の言葉をかわし、舞台裏につながるドアを押し開けて会場に入る。
「足元が暗いので、お気をつけください」
社長にそう告げて、舞台袖まで行く。舞台へ上がる階段はやや急で狭い。御年65歳になる社長にはやや辛いかもしれないと思いつつ、くるみは振り返り社長の方を見た。
「あの赤いテープのところまでお願いします」
しかし、舞台袖にいた男性社員が、くるみにそう声をかける。
「あ、この先も案内が必要ですか?」
「お願いします」
くるみはヒールであの階段を上がるのが嫌だなと思った。しかも案内役とはいえ舞台に上がるのはやや緊張する。
「それではご登場いただきましょう、弊社社長の──」
進行係が社長の名前を呼ぶ。周囲の関係者がみんなして舞台へ行けという視線を送ってきた。
「あの赤い線まででいいんですよね?」
「はい」
最後、近くにいた先ほどの男性社員にもう一度確認をしてから、くるみは社長の前に出る。
「階段の段差が高いので、お気をつけくださ──」
階段を登りながら、社長の方から舞台正面を見ようとして身体を向けた瞬間。狭い壁から飛び出ていた釘に、くるみのドレスがひっかかり、ドレスが左肩から滑り落ちた。