(えっ……? 何……)

すべてがスローモーションのように思えた。左胸に詰めていたパッドが舞台上にはらはらと落ち、客側は全員がこちらを見ていた。立席パーティー式になっていた客側の席の方が暗い中、好意を寄せていた先輩の姿だけは、こういうときもすぐに見つけられた。

(終わった……)

くるみは急いで落ちたパッドを拾い、社長の方を向く。

「あそこの赤い線のところまで、お願いします」

そこまでは妙な冷静さがあった。それだけ言って、入ってきたドアを引きその場を出た。

 

会場となっていたホテルのエントランスまで来ると、ようやく何が起きたかを頭が理解し始めていた。

(……私、前世で何か悪いことでもしたのかな……)

瞳からぽろぽろと涙が溢れてくる。目があった瞬間の先輩の顔がフラッシュバックする。

(人前であんなにパッド詰め込んだ女が上半身露出してたら、そりゃ見るよね……)

涙は止まらないし、息も過呼吸になってきて、嗚咽が漏れた。玄関から外へ出ようと思ったが、今すぐにでもしゃがみこんでしまいたい気もする。足がこれ以上は動けないと強い意志を持っているようだった。

(なんで、こんな目に遭わなきゃいけないの……?)

あの場を見ていた誰が、どこまで理解したかはわからない。たくさんパッドを詰め込んだ女、としか思われていないかもしれない。だからといって病気で片胸がなくなったのでパッドを詰めました、と説明して回るのも余計に惨めだ。

(……やっぱりパーティーなんか、参加しなきゃよかった。本当、バカだな私)

「あの」

パーティーを楽観視していた自分を呪っていると、すぐ近くで靴音が鳴った。そして男性の声が降りかかる。