季節は冬の終わりだった。

のとはどこへも行く当てがなかった。

風が冷たく吹き付けて、のとの身体は誰かに小突かれたようにふらついた。今更だが、ぽろもきのところへ行ってみようと思った。

住所を聞いていたので、のとはぽろもきの住んでいる森の方へ歩き出した。森の中の道にも雪がしっかり積もっていた。

歩みを進めようとする足を雪が邪魔をして、一歩一歩が重く感じられた。

―ぽろもきにはもう一緒に住んでいる女の人がいる。

のとは心の中で自分に言い聞かせていた。

「あっ、ぽろもきさんのおかげでおじいさんに会えて、今では幸せに暮らしています。あの時はありがとうございました。では、お元気で」

小さく呟いて台詞のように練習してみると、台詞と現実の違いが辛くなって、涙がこぼれた。

泣きながら訪問するわけにはいかないので、引き返し、涙が収まるのを待った。立ち止まって気を取り直すと、またぽろもきの家に向かって歩き出した。

この繰り返しを何度もしたので、途中の雪道はのとの足跡で踏み固められた。

やがて、ぽろもきの家が見えてきた。のとの心臓はドキドキした。

「では、お元気で」「では、お元気で」と早口で繰り返しながら、玄関に近づいていった。

 
 

 

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