おじいさんはいろいろなことを忘れたり、わからなくなっていたりした。のとに手紙を出して、一緒に住もうと書いたことも忘れていた。娘さんの知らぬ間に、訪ねてきた近所の人に頼んで手紙を出してもらっていたことが後からわかった(おじいさんは自分で歩いてポストまで行けないのだ)。

娘さん夫婦は、事情を聴いて気の毒に思い、自分たちは息子と寝るということで、のとに部屋を用意し、しばらく一緒に住めるようにしてくれた。のとは娘さんの手助けをしようと、できるだけおじいさんの世話を頑張った。

しかし、おじいさんの物忘れはどんどんひどくなっていった。

ある日、夫婦がのとに謝りながら話してくれた。

「のとちゃん、ごめんなさい。おじいさんには、病院のある施設に入ってもらうことになったの。それでね、うちの家族も3人でやっと暮らせるようになったの。のとちゃんには悪いんだけれど、のとちゃんと暮らすのがむずかしいの」

「私こそごめんなさい。長い時間お邪魔しちゃって。そろそろ帰ろうと思っていたんです。もっと早く言い出せば良かった」

「おじいさんのお世話をよくしてくれたので助かったよ」と旦那さんは言ってくれた。「せめて、帰りの船のお金くらいは出させてもらうからね」と娘さんも温かい言葉をかけてくれた。

「ありがとうございます」

のとはお礼を言ってこの家を後にした。

のとは、冬の自然島の港に帰ってきた。