ある日何かの拍子に、私がミラノに用事があるので戻ると言うと、ボリスが「自分もミラノについでがあるのでよかったら車に乗せてあげる」と言った。
丁度週末で歌のレッスンはお休みだった。私はボリスの車に乗せてもらった。ボリスはイタリア語はうまくなくて私たちの会話は英語だったけれど、彼の英語はとても流暢だった。私はミラノに向かう車の中でほんの少し自分の話をした。
私が借りているアパートはアンブロージオ教会の傍にあった。音楽院には地下鉄で通っている。学校までは少しあるし、狭くて部屋代も高いのだが、この古い歴史地区がとても気に入っている。元々歴史地区に住みたくてここを探し出したのだ。ボリスは機嫌よく言った。
「偶然だね。実は僕の借りているアパートは君のアパートのすぐ近くだ」
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