話の流れからして、一瞬、告白でもされるのかと思える雰囲気。その後の言葉が「彼女、いるの?」とかだったりしそう。ナンダカンダ思っても、かなりの期待大のシチュエーション。

カサカサと、少し残っている木の葉を揺らす風が吹いた。

「あのね!」

その風に合わせるように、彼女は口を開いた。

「私が転校してきたのはね!」

かなりリキが入っている言い方。

『告白じゃなかったのか』

今度は僕が風にほのかな期待さえも吹き飛ばされた気分。期待した自分が馬鹿だった。

「加納君?」

「あ、ごめん」

期待が見事に外れた僕は、一瞬、放心状態になっていたらしい。彼女の問い掛けに我に返った始末。

「……話して……いい?」

そのような僕を覗き込む感じで彼女は言った。

「いいよ。ごめん」

自分の勝手な思い込みで、せっかくの彼女の、かなり決心めいた言葉を遮ってしまったようで申し訳ない気もしていた。

「どこから話していいかわからなくて……加納君にもだけれど……誰にもちゃんと話したことなくて……」

「そうなの……」

「あのね、私が、この時期に転校してきたのはね……」

僕も含め、クラス中……いや、学校中が気になっていたことだ。

少し、身を乗り出した感がある自分。

「実際には大した理由じゃないの」

「実際には?」

「うん……」

彼女の妙な言い方は、何処か引っかかった。しかし、彼女が話し出すまでは、それ以上は問い詰めないことにした。

「父親が海外転勤になったのね。急な話で……」

「そうなんだ」

本当に大したことない理由。というよりかなりよくある話そのもの。ホッとしたような期待が外れたような……。

 

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