【前回の記事を読む「予備校の講師との間で妊娠が発覚し、予備校はおろか、高校も退学になった」さすがにこの噂には彼女も参ったらしく…

第一章 コスモスの頃

二.噂

「ごめん……いいよ」そう言うしかない僕がいた。

「……私こそ、ごめんね」

それほどの泣き声でもないし、鼻声でもない。その言葉を聞いて、僕は少しだけ安心した。

「……けっこう、いろんな噂が飛び交ってるからさ……」

「みたいね」

「なんていうか……ちゃんと言っちゃった方がよくない?」

そう言った僕の言葉に、彼女は暫く間をおいた。瞳は僕を見ている。僕も彼女の視線から目を逸らすことができなかった。

「そうなんだけど……」

躊躇いがちに言った彼女の言葉。その口調で、僕は、それ以上のことは何も言わない方がいいと瞬間的に感じていた。

「ごめん。いいよ。安藤さんがいいなら」

「うん……今は……」

「だから、いいよ」

「……ごめん」

僕が怒っているとでも思ったのか、彼女は声を小さく、そう言った。

「別に、怒ってるわけじゃないから」

咄嗟にフォローしていた。

「……ごめん」

それだけ言うと、彼女は、また机に顔を伏せてしまった。

「加納、安藤さん、泣かせただろ」

隣に座ってる友人が、からかうような口調で言った。

「っるせぇな!  関係ねぇだろ!」

つい、強い口調で返してしまっていた。

「そんなにムキになることねぇだろ」

単にからかい半分だっただろう友人も、少し面食らったようだった。自分でも、何故、それほどまでにムキになって答えたのかわからないほどだったのだから。