【前回の記事を読む】あかぬけて、都会的な彼女はファッション雑誌から飛び出したような風貌だった。そんな彼女に男子は近づくこともできない。

第一章 コスモスの頃

一.転校生

「あんたのクラスに来た転校生の子。あの子、汚職して辞任した政治家の娘さんなんだって」

ちょうど、同じ名前の政治家が汚職か何かで問題になっていた時期だった。

そのような環境の中での、更にごく限られた〝学校〟という狭い場所。町の噂よりも、更に速いスピードで広まるのは必至。良きにつけ悪しきにつけ……。

隣のクラスからも、彼女見たさに、特に大した用事もないのにもかかわらず、自分の教室へ訪ねてくる奴らも少なくなかった。

特に、自分のところへは、一、二年生まで、ほとんど付き合いのない奴まで、何だかんだと用事をつくってはやってくる日々。自分のところへ来れば、彼女を間近で見ることができるのは必然のことだ。

それでも、彼女を見た途端、誰もが話し掛けられずに、そのまま戻ってしまうこともしばしば。それも当然。最初からずっと隣にいる自分でさえ、何か用事がないと話し掛けることすら躊躇(ためら)われたくらいだったのだから。それくらい、彼女の容姿だけでも、そこから放つオーラ的なものが強かったわけだ。

とは言っても、彼女自身、全く〝高飛車〟なところもなく、クラスの女子とは、もうずっと前からの友達のように笑って話していた。彼女に話し掛けることすらままならないほどの〝オーラ〟を感じていたのは、どうやら男子だけだったらしい。

クラスの男子の間では、最初は、何故この時期にわざわざ東京から転校してきたのかということが話題になっていた。

「加納。お前、聞いてみろよ」

よくそのようなことを言われてはいたが、なかなか聞くチャンスはなかった。聞けば、たぶん答えてはくれただろうけれど、彼女自身から何も説明がないという状況から、何となく聞けなかった。紳士的とは到底、言い難いほどの自分ではあったが、それでも、プライベートを率直に聞くほど無神経でもない。