いつもは苦笑しながらも対応していた彼女もこの妊娠の噂には、さすがに参ったらしい。
溜め息をつきながら、僕の席の隣に戻ってきた。昼休みも終わりの頃だった。
「はぁ〜〜〜」
彼女は大きく溜め息をつくと、両手を机の上に伸ばし、顔を伏せた。
「大丈夫?」
思わず、僕は声を掛けた。
「あんまり大丈夫じゃない」
机に顔を伏せたままの彼女は言った。
「あのさ」
「なに?」
何となくだけれど、彼女に対して変にムカついたような自分がいた。はっきりとした理由などなかったが、あれだけの噂が飛び交っているのに、きちんと釈明しない彼女の姿勢にイラついていたのかもしれない。
彼女の一種、煮え切らない態度に僕がイラつく必要もなかったが、それでも何故かイラついていたことは確か。もしかしたら、自分も真実を知りたかったという気持ちが無意識に働いていたのかもしれない。彼女にとっては大きなお世話といえば、そうだったろうけれど……。
机に身体を伏せたまま、顔すら上げようとしない彼女に、ついに僕は言ってしまった。
「人が話し掛けてんだからさ、顔くらい上げろよ」
「あ……ごめん……」
そう言うと、彼女はゆっくりと身体を起こし、顔を上げた。そして、僕の方を見た。少し目が赤い? その大きな目が赤くなっているのを見た僕は、何だか自己嫌悪に陥っていた。
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