「今度、聞いとくよ」
友人たちには、そう言っておくしかなかった。
そうこうしているうちに、〝何故この時期に〟というような素朴な疑問は薄れ、いつしか、彼女の東京でのことが話題になっていった。彼女が突然転校してきてから一週間も経たないうちに、クラスの女子の間から噂がたった。
「ねぇねぇ。安藤さんって、東京ではモデルしてたんだってよ!」朝、登校してくるなり、ある女子が言っていた。それを聞きつけた周りの女子の反応は速かった。
「なんで知ってるの?」
「昨日、東京の大学へ行ってるお姉ちゃんが電話で言ってた!」
「言ってたって、安藤さんのこと、知ってるの?」
「知ってるっていうか、この前、写メ送ったら、似てるモデルがいるんだって」
「どんな雑誌?」
「東京で流行ってるらしいけど、わかんない」
そのような会話が二、三日続いた。彼女はといえば、その話題を真っ向から否定していた。
東京で流行っている雑誌なら、この町の本屋やコンビニにも並んでいる。
噂は噂。
次に立った噂は、彼女が東京で通っていた高校の教師と恋に落ち、その高校にいられなくなったという噂。モデルの噂から、なんとも飛躍したものだ。その噂にも、彼女は笑いながら否定していた。
次が、妊娠説。噂では、予備校の講師との間で妊娠が発覚し、予備校はおろか、通っていた高校も退学になったらしい。
「普通、同級生か担任だろ」僕は友人にそのようなことを言ってはいたが、内心では、何処かで頷けるところがなかったといえば嘘になる。やはり、自分のクラスや学校全体の女子を見ても、彼女は飛び抜けて大人っぽい。同級生なんか相手にするわけない……そのような思いが頭にあったのは事実。