序章

初雪

誰かと一緒に見ることの意味

あの時はわからなかった

それは、すごくすごく大切な瞬間だってことを……

「一緒に初雪が見たいな」

窓際に置いてある観葉植物の手入れをしていた君。

遠い目をして窓の外を見ながら、独り言のように呟いていたっけ。

「雪?」

「うん。初雪」

当たり前のような口振りでそれだけ言うと、その白い手で触っていた観葉植物を、今度は愛おしそうに撫でていたね。

「雪なら嫌っていうほど一緒に見れるだろ?」

「初雪が見たいの」

ちょっと拗ねたような君の口調。

そして、ちょっと意地悪そうな目で僕を睨んでいたっけ。

冬になると、辺り一面が真っ白な雪化粧となるこの土地。

そこに住んでいた僕たちにとっては、雪や雪景色は見慣れた光景だったはず。

君の言っている意味がわからなかった僕は、たぶん、訝しげな顔をしていたと思う。

「今度の冬までの宿題!」

リビングのソファで音楽雑誌を読んでいた僕の隣に来て座った君は、僕の読んでいた雑誌を取り上げると、今度はトビキリの笑顔で言ったよな。

少し開けていた窓からは、まだ生暖かい風が入り込んできていた夏の終わりの午後だった。