第一章 コスモスの頃
一.転校生
「あ……わりぃ……で、見たのか?」
「ちょっとな」
「どんなだった?」
「俺、今日、日直だろ? でさ、職員室に行ったらさ……」
「うん」
僕は知らずのうちに少し身を乗り出していたようだ。
「お前でも興味津津か?」
小野がからかうように笑って言った。
「そりゃ、まぁ……な」
「正直でよろしい」
少し上から目線風にそう言った小野は、そのまま話を続けた。
「うちの担任と挨拶してたんだよな」
「で?」
「横顔しか見れなかったけど、けっこう可愛かった……な。うん!」
少し自慢気な様子の物言い。
「もしかしたらさ……」
意味深げな表情で小野は僕の横の席を見た。
「お前の隣に来るんじゃね?」
そう言うとニヤニヤしていた。
その時の僕の隣の席……一番後ろで窓際の隣の席が空いていた。先月、親の仕事の関係とかでアメリカか何処かへ転校していった奴がいた場所だ。
「……かもな」
冷静を装ったつもりだったが、僕もいつもより顔が緩んでいたかもしれない。
「ま、がんばれよ!」
そう言い残して、小野は自分の席へと戻っていった。
「がんばれって、何だよ」
僕は独り言を言いながら、心の中では少なからずワクワクしたような気分になっていた。
『ん? 朝の占いってこのことか?』
確か、絶不調のはず!? そうこうしているうちに、朝のホームルームの時間になり、それを知らせるチャイムが鳴った。
ふと視線を感じた。小野の方を見ると、机の上で親指を立てて、こちらを見て薄笑いを浮かべている。
その妙な薄笑いを見ると、「可愛い」という話は、まるっきり嘘かとも思えた。どちらとも取れる笑い方が変に気になったのは確かだったが、まわりくどい嘘をつく奴でもない。