しかし、その時のザワメキはいつもとは違っていた。期待や好奇心というような感じはない。いつもなら飛び交う言葉もない。
何処からか「どうして……」というような声が聞こえてきたくらいだ。無理もない。その転校生が僕の教室にやってきたのは、高校三年の秋。普通なら、受験や就職などで転校生などあるような時期ではなかったからだ。
しかも、たとえ何処からだろうと、都会とはほど遠いこの町に転校してくるなど、誰もが単純に不思議がるのも当然。
担任が、教室の前のドアを開け、一旦、廊下に出た。その瞬間、教室全体が今度はうるさいほどに変わった。
「今頃になって転校生?」
「知ってた?」
「かっこいいかな!」
「でも、わけありだったりして!」
男子の方がはるかに多いクラス。当然、男子と決めつけたような女子たちの甲高い声が飛び交っていた。
男子群はというと「どうせ野郎だろ」というような感じ。それほどの興味はないようにも見えたが、それでも、この時期外れの転校生には興味ありといった感はあった。
先に情報を教えてくれた親友の小野は余裕の感じ。僕に向かって、また、あの薄笑いを浮かべているだけだった。
小野の隣に座っていた女子が、「ねえ! あんた、知ってんでしょ!」と執拗に問い掛けていた。何と言っても、クラスでは情報通で有名な奴。しかし、小野は「知らねぇよ」と平然とシラをきっていた。シラをきるのは小野の得意技。その様子に、僕は思わず笑ってしまっていた。
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