「ま、どうでもいっか」

さっきまでのワクワクした気分を一気に削がれたような気分にもなっていたせいか、興味あり半分・興味なし半分のような感じになってしまった自分は、教室の窓から遠くに見えるその時期が全盛のコスモスでピンク色に染められた丘を椅子にもたれながら、ただ、ぼ〜っと見ていた。

ガラッ……。教室のドアが開く音が耳に入った。

それまで、チャイムの音など耳に入っていないように騒いでいた連中だが、さすがにその時は、そのまま自分の席に戻り、教室は静かになった。僕も少し身体を起こして教壇の方へ向いた。

これもまた、いつもと変わらない光景。担任が、何事もない表情で教壇のところに立った。そして出席を取る。

僕は、ノートを破り、丸めて小野へ投げた。

「なんだよ」

小野は小声でそう言うと、こっちを見た。空いている席とは逆隣の列の、自分より二つ前に小野の席があった。

「何処にいるんだよ」

「あ?」

「転校……」

そう言いかけたところで、担任が出席簿を閉じて「今日は……」と言い出した。今度は、小野がノートを丸めたものを投げ返してきた。

「ほら、みれ」

小野はそう小声で言っていた。僕は、「すまん」というジェスチャーをして担任の方を見た。

「転校生が来るから。これから紹介する」

決して若いとは言い難い担任。もう何回もそのような場面に立ち会って来ただろうといった感じで、淡々と事務的に言った。

一瞬、教室がざわめいた。「転校生が来る」と聞かされると、大抵教室内はザワメキが起きるものだ。期待とか好奇心とかが入り交じったようなザワメキ。「男子? 女子?」とか「何処から?」などという言葉が飛び交う。