第一章 コスモスの頃

一.転校生

それから数分くらいすると、担任が再び教室に入って来ると、誰かを手招きするような仕草を見せた。教室は、一瞬静かになった……が、その瞬間、大きなドヨメキが起きた。

「おお!」

既に小野から転校生の情報は聞いていた。しかし、その転校生が「可愛い」という言葉をいつものジョークと半分、決めつけていた自分。たぶん、他の生徒よりも遅れて、その転校生の姿を見たと思う。「おお!」というドヨメキに釣られて見たようなものだったから。

「へ?」

思わず僕は息を呑んだ。小野を見ると、またもや自分の方を見て「ほらな」とでもいうような笑いを浮かべていた。

担任の後ろから隠れるように入ってきた転校生。小野が言った通り女子。ずっと下を向いたままだったが、〝可愛い〟というよりも、むしろ〝美しい〟という形容が適しているような容姿であることは遠目といえども間違いのない事実だった。たぶん、誰もが予想を外したに違いなかった。

「東京から転校してきた〝あんどうなつこ〟さんだ」

担任のその言葉に、教室内のドヨメキはまたもや一瞬でおさまった。それから、担任が黒板に彼女の名前を書いた。

《安藤夏子》

それから「挨拶を……」というように、彼女の背中を軽く押した。その時、初めて彼女は目線を上げ、僕らの方を見た。

一番後ろの席だった僕は教室全体が見渡せる。当然、大半は友人たちの後ろ姿だが、様子だけはわかる。男子は無表情で固まっていた。女子は呆気に取られたような感じ。

僕は、その光景に少しだけ優越感のようなものを覚えていた。小野から事前に情報を得ていたことで、〝固まる男子〟の仲間に入らなくて済んだのだから。斜めからしか見えなかったが、小野も余裕の表情だった。