第一章 コスモスの頃

一.転校生

実は、自分だって、そうもてない方でもない。高校に入ってからは、彼女がいてもいなくても月一くらいのペースで告白されてきたくらい。

高二の時は、同じクラスの女子から「加納君って、○内涼真に似てるよね〜」などと人気俳優の具体的な名前など出されながら比較みたいなこともされていた。もっとも自分では全然似ているとも思わないが、バスケ部に所属していたせいもあり、背は一八〇センチ近くはある。とりあえずは、それほど悪い方ではない……と自負。

そのような自分が、女子から声を掛けられてビビることなど、想像もつかないといえばつかない。

それがだ! 情けないことに、この安藤夏子という転校生に一瞬のうちに"情けない男子"に変えられてしまったのだった。

「おい! 加納!」担任の声がした。

「は、はい?」

思わず、席を立ってしまっていた。

「席は立たんでもいいが……ま、よろしくな」

そう言って、担任は一時間目が始まる前に教室から出て行った。「クスクス……」何処からともなく、笑い声が聞こえている。彼女を見ると、彼女も下を向いて笑っていたようだった。

これが、彼女……その朝の占いが見事に外れたとも思える、安藤夏子との初対面の時となった。高校三年の秋。受験時期も間近の、その時期にしては昼間は小春日和の暖かい日だった。季節外れの転校生として彼女が自分のクラスに突然現れ、それまでの自分自身を失ったその日。

僕は彼女の顔をまともに見ることはできないでいた。担任からは「面倒をみてやれ」というようなことは言われてはいたが、そんな余裕などない。

情報通の友人の、あの含み笑いから思っていたこと。

『どうせ、ろくな女じゃないんだろ』