そのような思いも見事に裏切られた。僕は、その容姿というよりも、そのオーラ的なものにヤラレテしまっていた。自分からは話し掛けることができない……というか、話し掛ける話題がない。思えば、いつものように「教科書あるの?」みたいに、自然に話し掛ければよかったはずなのに、それすら考えが及ばない自分がいた。
まだ、近くでまともに顔を見たわけではない。しかし、彼女の持つ独特の雰囲気や遠目に見た美しい容姿に圧倒されていたことは否めない事実だった。独特の雰囲気というのは、その時はただ漠然としたものであったが、後々、気づくことになる。
僕が彼女の顔をまともに見ることができたのは、その日の放課後になってからだった。
その間は女子が彼女の周りを取り囲んでいたり、昼休みには女子軍団に交ざって、既に仲良くお喋りなどしていたようだった。
「安藤さんの制服、東京って感じだよね〜」
そのような声が聞こえていた。彼女の風貌にヤラレテいた自分は、彼女の制服までは気がまわっていなかったみたいだ。女子たちのその声で、気づいた始末。
自分の高校もブレザーの制服ではあったが、彼女の着ていた前の高校の制服と思われるブレザーは、女子たちが騒ぐのも当然のように、何処かあかぬけているというか、デザイン自体が、地元の他の高校の制服でも見たことがなかった感じだった。
「デザイナーズでしょ?」
いつも、ファッション雑誌を見ては、一番騒いでいる女子が、何かを思いついたかのように、大きな声で叫んでいるのも聞こえてきていた。
「ん……そんなところ……かな」
少し戸惑っているような口調の彼女の声。
「やっぱり〜! すっごい〜! もっと見せて〜!」『どうせ、ろくな女じゃないんだろ』そのような会話で盛り上がっている女子たちの間に入ることすら不可能なことであるのに、特に用事もない自分が、その中にいる彼女に声を掛けるタイミングなど持てるはずもない。