「加納」
小野が話し掛けてきた。
「お前、何か話したか?」
「いや」
「何やってんだよ。お前、今、彼女いないんだろ?」
「だから、何なんだよ」
「チャンスじゃんかよ」
「あ?」
わざとわからない振りをした。友人の言いたいことは手に取るようにわかっていた。自分の情けなさや不甲斐なさなどが入り交じっている。この時も親友にでさえ、いつもみたいな自然な会話ができないでいた。
若かったんだろうな……などと今は思う。それも見破られているに違いなかったが、それでも、その”振り”をし続けている滑稽な自分が客観視できてしまっていた。
「ったく。お前らしくないじゃんか」
「そっか?」
「いいから。今日中には声、掛けろよな」
そう言い残し、小野は違うグループの輪に入っていった。
昼休みも終わりに近づき、僕は自分の席に戻り、何となく窓の外を見ていた。それは、いつもと同じ。と、不意にその視界が変わった。転校生の彼女が席に戻ってきたのだ。それまでの長い期間、窓の外の景色と自分を遮るものは何もなかった。故に、その時の視界の中にあった風景は長い間、経験していなかった風景だった。
目が合った。
「今日中に話し掛けろよ」と言い残していった小野の言葉が頭を過った。
よし!
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