「加納、何かあったら教えてやれよ」

「……はい」

さっきからニタニタと含み笑いをしていた小野は、最初に彼がしたように、机の上で親指を立てていた。小野の意味深げな含み笑いを変に疑った自分に、一瞬だけ後悔のような複雑な気持ちが過っていた。

転校生の彼女は、僕の席の方へと両脇に机が並んだ狭い通路を歩いてきた。彼女が歩いてきた通路側の男子はというと、彼女が通り過ぎるたびに、まるで、〝正確さ〟を絵にでも描いたように、順々に振り返っていた。そして彼女が僕の隣まで来た。

「え……と……この席でいいんですか?」

そう話し掛けてきた声のトーンがやけに優しく儚くも感じられた。

「あ……そうです」

僕は、その言葉しか出てこなかった。丁寧語まで使っている自分もいた。

「失礼します」

そう言うと、彼女は僕の隣にずっと放置されていた空席に座った。チラッと彼女の方を見ると、一瞬、目が合った。

「よろしくお願いします」

「いえ……」

なんともお粗末な答え。

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