彼女が転校してきてから二週間くらい経っていた。

その間、ラッキーなことに隣の席になったとはいえ、それほど多くの会話を交わしたこともなかった。まして一緒に帰るなど、予想だにしていなかったこと。

『こんな美人と歩いてたら目立つだろうな』

昼休みに彼女とあった会話などや彼女の様子は何処へいってしまったのか、僕はそのようなことだけを考えていた。緊張……とも違う……なんだろう……この感覚。未だもって、あの時の自分の感情はわからない。あまりの突然の出来事に、たぶん、思考回路がショートしていたようだった。

「じゃ、帰る?」

彼女は、少しだけ恥ずかしそうな微笑を浮かべて言った。

「ああ」

努めて冷静を装う自分。

「ごゆっくりね〜」

クラスの女子が楽しそうに手を振っている。まるで、いつかTVで見たことがあるような光景――そうだ! お見合いなどでふたりきりにさせる時の仲人や親たちの姿そのもの。
なんだか急に恥ずかしさが湧いてきた。

「行こうか!」

その場から逃げたくなった僕は、強引に彼女の制服の袖を引っ張っていた。

「じゃ、明日ね……」

彼女は友人たちにそう言いながらも、僕に引っ張られるまま、教室を後にした感じになっていたはず。階段を下り、下足室へ着くと「もういい?」というように、彼女は僕を見た。まだ彼女の袖を掴んだままの自分。それもけっこうな恥ずかしい光景。

「あ、悪い!」

急いで、掴んでいた袖を離した。

隣で彼女はクスクスと笑っていた。

 

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