三時間目の授業のチャイムが鳴り、四時間目もそのまま過ぎて、放課後になった。様々な噂が飛び交っていたとはいえ、クラスの女子は彼女を仲間外れにしたり、無視したりというようなイジメのようなことはしていなかったようだ。普通に挨拶もしていれば、休み時間ともなれば、転校初日と変わらず楽しそうにお喋りに花も咲いていたようだった。

「安藤さん!  一緒に帰ろ!」

そのような言葉も普通に聞かれる。それを目にしたり耳にしていた僕は、少なからずホッとしていた。何故だろう……初日から隣の席で親近感のような感覚を覚えていたからと、その時は単にそう思っていた。

「あ、ごめん。今日はちょっと……」

彼女の声が聞こえた。ふと、その声の方を見ると、彼女がこっちへ歩いてきた。

「加納君」

突然、声を掛けられた。

「今日、一緒に帰れる?」

「……?」

一瞬、日本語がわからなくなったと錯覚した自分がいた。

「放課後、空いてる?」

もう一度、彼女が尋ねてきた。やはり聞き間違いでも、自分が日本語が理解できなくなったのでもないと確信できた。

「あ……ああ……うん。いいけど」

「ありがと」

彼女との会話を聞きつけた男子の視線が鋭く突き刺さっていたのも同時に感じていた。最初に情報提供してきた親友の小野は、相変わらずのニヤついた顔つきでこちらを見ている。

「な〜んだ。加納君と帰るんだ〜」

女子の間では、冷やかしめいた言葉が飛び交っている。

「加納! 明日、おぼえてろよ!」

そうは言って、男子も、ある意味「頑張れよ」的な言葉を発して、さっさと教室を出ていってしまった。