【前回記事を読む】今の脚の状態だと、間違いなく逃げ遅れるだろう。みんな、非常階段をゆっくり下る私を突き飛ばして、雪崩のように…

1 始動

三田② 2011年

3周年当日、イベントも終盤に差し掛かり、私の出番が回ってきた。

既にレー●ンブ●イやらウーロンハイやらをトータルで10杯近く飲んでいたし、集客も満員ではあるが五十名ほど。自分のイベントだし、緊張の「き」の字もない、それにもかかわらず、DJブース内での私の右脚は震えていた。

震えていたというより、激しく貧乏ゆすりが止まらなかった。正面のお客には見えないが、横から眺めているお客には勘づかれる。

止めようにも右脚にチカラが入らなく止まらない。私は酷く動揺していた。

もうこの際ワザと縦ノリの曲を集中的に流し、ダンスフロアに変えてしまおう。そうすればオレの右脚が小刻みに震えていても傍から見た客は、リズムを刻んでいると勘違いするに違いない。

途中ケイゴから「ゴルフ(私のあだ名)今日飛ばすね、いつもと違くていいじゃん」なんて声を掛けられたが「ありがとう」としか言えず、本当はブルーノ・マーズやアデルを流して、マッタリ、やりたいんだとは言えなかった。

そんな投げやりのDJとは裏腹に、フロアは大盛況で店のビールは底を突いた45分間。常時震えていた右脚は出番が終わり、ブースを出たら治っていた。

追加のウーロンハイを貰いにカウンターに向かう私にマサミが一言、

「来週病院連れていくから」

どのタイミングで脚の不調に気付いていたのか。私はその一言に小さくうなずくしかなかった。