【前回記事を読む】「ガツン!」と揺れ始めた。商品も何本も降ってきて、奥では「バキバキ!」と何か壊れる音。なのに、老人は動じず会計を続けて…

1 始動

新橋 2011年

そのニュースを観ながら、もし東京で同じ規模の震災が起き津波に晒されたら、間違いなく私は、今の脚の状態だと逃げ遅れるだろうし、周りの人達に「私には構わずに先に逃げろ!」と声を張り上げることができるのか? 

もしたった今、地震が起きて非常階段をゆっくり下っていたら、後ろから人が雪崩のように下りてきて、みんな、私を突き飛ばして、我先に下りていくのだろうか? 

そんなことを考え始めた頃、心なしか店内にいた全ての人が、今後の不安をふき消すかのように、話し声のボリュームが普段より一段も二段も大きく聞こえたような気がする。

レー●ンブ●イを3杯ほど飲み終え、さすがに彼女との約束通りに、1時間で店を出る。

時刻は21時。残りの距離を歩き終えるのに何分かかるのか、今後この右脚はどうなってしまうのか、ゆっくり、ゆっくりとだが身体の右半分がおかしくなってきて、終いには全身動かなくなるんじゃないのとか。

明日も店は営業するということは、新橋まで右脚を引きずりながら、歩いて出勤するのかとか。

明日からの人生の不安にかられながら、古川橋を過ぎ真っ暗な深々とした、明治通りを歩く。

後ろからは、乗客ですし詰め状態の都バスがこちらを照らしながらゆっくりと近づいてくる。