【前回の記事を読む】全人類に共通するアイデンティティは「細くて長い形」?進化の歴史から迫る、人間が持つ潜在意識の根源とは。
第1章 「細くて長い形の文化」は直立二足歩行から始まった
Ⅲ 「細くて長い形」の程度を測る尺度―アスペクト比(縦横比)
◆アスペクト比が一〇〇以内の世界
凛と自立して建っている図1‐5に示すような三つの建物を比較しよう。ニューヨークのマンハッタンにある国際連合本部ビルがハドソン川を見下ろしている。
高さ一五四mの長方形のシンプルな建物はよく知られているが、アスペクト比は二・〇程度で境界の二・七以下であり、どっしりとした安定感を与えてくれる。
ヨーロッパの町や村の中心には教会の尖塔がしばしば見られる。イタリアの二つの塔を紹介しよう。ピサ大聖堂の鐘楼であるピサの斜塔は有名である。
地盤の土質の不均一が原因で約四度近く傾斜している。高さ五六mの斜塔のアスペクト比は約三・五で境界の二・七を超えており、安定感の中にも「細くて長い形」を少し意識するようだ。ヴェネツィアのサンマルコ広場にある大鐘楼も有名である。
高さ九九mのレンガ造りの尖塔は美しい。この塔のアスペクト比は約六・六であり、「細くて長い形」を意識する。
世界遺産であるギリシャのパルテノン神殿は多くの柱によって支えられている。
この柱は安定感を与えるために、柱の下部から上部にかけて徐々に細くした、いわゆるエンタシスを施した柱として有名であるが、この柱のアスペクト比は五~六の間の数値である。
日本の寺院の門の柱のアスペクト比も五~六であるものが多く、「細くて長い形」と感じる。
私たち人間のアスペクト比はいかほどであろうか。人間の体形もいろいろある。太って背の低い人から、やせて背の高い人まで千差万別であるが、
大人の体形のアスペクト比はおおよそ三~五の範囲にはいり、「細くて長い形」をしたものと感じるか、感じないかの入口に近い位置にいるようである。