【前回の記事を読む】初期の人類は、骨を食べていた―!? ひ弱なのに過酷な状況を生き延びられたのは、狩猟動物が見向きもしない動物の死骸を…

第1章 「細くて長い形の文化」は直立二足歩行から始まった

Ⅱ 「細くて長い形」は美しい

人類は直立二足歩行することで、人間の足のつま先から頭までが、屈曲することのない一本の線でつながることになった。人類の男性および女性は、すらっとした「細くて長い形」をしている異性を好ましく感じるように、長い年月の間に脳にインプットされてきたようである。

現代の女性は、細くなる努力をしている。細く見せるファッションの工夫をしている。ハイヒールを履いて背を高く見せる工夫をしている。これらは、現代人には細くて長い体形が美しい・素晴らしいという根底の感覚が潜んでいる事を意味している。

さらに、連想することが得意な人類は人間以外の「細くて長い形」をしたものに対しても違和感を抱かずに受け入れるようになったと考えてよいかと思われる。

トウシューズを履き、つま先立ちして指の先からつま先までを一本の線にして、軽やかに幻想的に舞い踊るバレリーナの姿は美しいものである。手足を思い切り伸ばしたアスリートの一瞬を捉えた写真からも躍動感や美しさを感じる。浮世絵でも、美人の象徴として女性のすっきりとした立ち姿がしばしば描かれている。

私は、人の立ち姿を追っていく中で、究極の立ち姿に行き着いた。その立ち姿は、法隆寺の百済観音(くだらかんのん)のお姿である。百済観音は図1‐2に示すような飛鳥時代を代表する国宝の仏像で、法隆寺の大宝蔵院に安置されている。

図1-2 百済観音像(写真提供 ユニフォトプレス)

像の高さ二・〇九m、八頭身の長身で、クスノキの一本造りである。S字型の優雅な立ち姿と、面長なお顔の口元にただようかすかな微笑みは神秘的である。この仏像には、朝鮮半島の国の百済と命名されているが、材質のクスノキから作られた仏像は朝鮮半島にはなく、日本でしかみられない。