【前回の記事を読む】「すらっとした異性が好ましい」というのは、男女ともに脳にインプットされていること!? …人類にとって「細くて長い形」は美しい

第1章 「細くて長い形の文化」は直立二足歩行から始まった

Ⅱ 「細くて長い形」は美しい

◆「細くて長い形」は人類のアイデンティティー

最近の遺伝子研究によって、私たちの直接の祖先と言われる現生人類(ホモ・サピエンス)は、約二〇万年前の東アフリカで誕生したことが分かってきた。

私たちの共通の祖先の女性を、敬愛を込めて「アフリカのイブ」と呼んでいる。ここで、現生人類の特徴を端的に表現できるラテン語の「知恵のある・人」を意味するホモ・サピエンスが名称に選ばれた。

ホモ・サピエンスは東アフリカのエチオピア付近で草原生活を送っていた。地球が氷河期に入り、草原は乾燥化が進み砂漠化していくと、食糧が入手しにくく、ホモ・サピエンスは生き延びることが困難になり、人口が一万人以下にまで激減していたといわれている。

これは、人類の遺伝子の多様性が少ないことから、この氷河期が人口のボトルネック現象の隘路に相当する時期であったと考えられている。そこで、ホモ・サピエンスは生き延びるために新天地を目指して移動を開始した。

アフリカのイブを祖先とする現生人類は、効率のよい直立二足歩行システムを駆使して、アフリカにニグロイド(黒人)を残して世界に広がり、コーカソイド(白人)とモンゴロイド(黄色人)に別れていった。

現在では、多くの民族が地球上に共存しているが、多くの民族の根本の遺伝子は同じであり、人類に共通した心の働きをする要素が根底に存在するものと考えられる。

人間は、例えば花を見て美しいとつぶやいたり、何かをしようとする時、自由な意思で振る舞っているように思えるが、脳はこの意識の決定の前に無意識の状態で準備を始めている。無意識に働く脳は生命維持・生理作用に関わるものが多いが、さらに広い範囲で無意識が脳に関わっていることが明らかになってきた。

有名な心理学者のユングは、心の奥深くにある民族や国家、人種を超えた全人類に共通して存在する「集合的無意識」というものがあると唱えている。集合的無意識は先祖から受け継いで現在の私たちの中にも存在するものである。

人類が生き延びるために選択した一直線の姿勢は、人類の脳裡に深く刻み込まれていたであろう。洋の東西を問わず、私たちは、細くて長い自立した形をした人間の立ち姿を、美しさや逞しさを秘めた素晴らしいものと認識している。

人間の外部から得る情報のうち、大半は形や色や動きなどの視覚からの情報である。これらは潜在意識として脳に集積される。類似した情報が入ってくると連想によって潜在化した意識が蘇る。

「細くて長い形」もその範疇にあり、直立二足歩行を選択した人類は、「細くて長い形」をしたものを違和感なく受け入れる集合的無意識を持ったのではないだろうかと私は結論づけている。まさに、「細くて長い形」は人類のアイデンティティーそのものといえるようだ。