Ⅲ 「細くて長い形」の程度を測る尺度―アスペクト比(縦横比)
私たちの周りには、いろいろな「細くて長い形」をしたものがある。細くて長い形の程度もいろいろである。細くて長い形の程度を測る尺度として「アスペクト比(縦横比)」がある。
アスペクトは外観という意味の英語であるが、比という単語と結びついて縦横比という意味で用いられる。縦の値は細くて長い形の軸線の長さであり、横の値は細くて長い形の断面が矩形ならば長い方の一辺であり、断面が円ならば直径である。
アスペクト比で最初に思い浮かぶのは黄金比である。古くから人間が美しいと感じる比率で、その縦と横の比率は一・六一である。この縦と横の絶妙のバランスが、人間に心地よさを提供するようである。
それでは、人々が物の形を「細くて長い形」として認識するアスペクト比はいくら位だろうか。
ここに興味深い実験がある。香川大学の松島学氏は、自立した長方形が人間に与える心理を調べる実験を行った。
自立した長方形が「押し付けられている」ように感じるか、「引っ張られている」ように感じるかの境界は、アスペクト比が二・七であることを見出している。長方形の高さが横の長さの二・七倍以上になると、人々は長方形の建物が「引っ張られている」と感じるようになるのだ。
これは、この自立した建物をどっしりとした安定なものでなく、高さ方向に意識の向く「細くて長い形」として捉える境界点として考えることができる。
しかし、アスペクト比が二・七の建物は、私たちが描いている細長いイメージには少し程遠い気がする。ここで、図1‐4にアスペクト比が一・六一、二・七、五、一〇、五〇、一〇〇の六つの比率を持つ長方形を一列に並べる。あなたが「細くて長い形」と感じるアスペクト比の値はいくらだろうか。
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