「私は昭和二二年一月熊本の生まれで二十九歳になります」

「えっ、そうですか、私は昭和二一年十月に福岡の生まれですから、お互いに団塊の世代の第一期生で同学年、しかも同じ九州ですね。では加藤さんは一九六九年入社ですか? 私は出来が悪くて一浪しましたから一九七〇年入社ですが」と、井原は頭を搔いた。

「いえ、私は一九六五年の高卒入社です。ニホンタイヤに入社後大学の夜間部に通って一九七〇年に卒業しました」

「働きながら学ばれたわけですか、すごい努力家ですね、加藤さんは」井原が感心したようにつぶやきながら、

「それでは私たちは同年代のよしみもあり、二人の時は友達として敬語抜きで、九州弁OKでざっくばらんに話をしませんか。もちろんオフィシャルで会社対会社の時はそうはいきませんが」と、再び提案した。

「そうですね、よしこれからそれでいくばい」と二人は握手をした。

話をしている間にも車はアトラス山脈を越え、南へ真っ直ぐな片側一車線の舗装された国道を走り続けている。

シャドリはハンドルをしっかりと握りしめ、前を向いて運転に集中している。

速度はコンスタントに時速百二〇キロぐらいは出ている。

周りの景色は林から丈の低い散木へ、そして両脇がほとんど薄茶色の砂の世界へと変化していく。

次回更新は7月1日(火)、21時の予定です。

 

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