【前回の記事を読む】井原と加藤、二人は同年代でしかも同じ九州出身「二人の時は友達として敬語抜きで、九州弁OKでざっくばらんに話をしませんか」
七、 砂漠への一本道
砂の中にくっきりと黒いアスファルトの道路が地平線の彼方まで真っ直ぐに延びている。対向車にはめったに会わないので、シャドリはセンターラインを跨いで道幅を一杯に使って走り続ける。
まれに対向車が来ても、走行車線側に戻るだけでスピードを緩めることはない。道幅が対向車とすれ違うにはぎりぎりなので、実際にすれ違う時は風の音がビュンと鳴り、風圧で車がぐらりと揺れる。
対向車がトラックになると、さすがに少し右側に寄る。するとすぐに砂利が敷いてある路肩に右側のタイヤが落ちて、ザーッと音を立てる。
出発から五時間が経過した。
「まだまだ先は長かばい。シャドリはずっと運転し続けとるばってんが大丈夫か?」と加藤が心配そうに言うと、井原がシャドリに、
「パーキングもないようだから、その辺の路肩に停めてトイレ休憩にしようか」と言った。シャドリは待ってましたとばかりに、すぐに路肩に寄って車を停めた。
西のモロッコ方向の砂漠に向かって三人並んでツレションだ。
太陽が高い所から強烈な光線を放っている。もうすぐ昼だ。車中にいてはエアコンが効いているので気がつかなかったが、太陽の下にいると熱い空気が身体を着衣ごと焦がす。じっとしていても暑さで体力を消耗する。
何本も持ってきたミネラルウォーターを一本開けて手洗いに使い、シャドリ持参のジャスミンティーを頂く。甘い。
「この甘さが疲れを吹っ飛ばしてくれる気がするたい」と、井原が言いながら、
「シャドリ オニヴァ(行こう)」と促した。
「ウイ ムッシュ イアラ」とシャドリが応えた。「イハラだよ」と井原が独り言のようにつぶやいた。