アスファルトと砂しかない超単調な景色の中を、しばらく走っていると左側に集落が見えてきた。周りの砂に同化するような薄茶色の建物が集まっている。

井原が持ってきた地図を見ながら聞いた。

「シャドリ、あの村は何?」

「ガルダイヤです」

「ああ、なるほど、ここにあるな。アルジェから六百キロぐらい来たことになるばい」と、井原が地図を指さしながら加藤に言った。

「オアルグラまであと四百キロぐらいあるとたい。シャドリはまだ大丈夫だろか?」加藤が心配そうに聞くと、井原は、

「彼は何時間でも運転でくっとらしか」と答えた。

やがて西の砂漠の彼方へ陽が落ち、あたりは闇に包まれてきた。

更に南へ南へと向かう車のヘッドライトが真っ直ぐなアスファルトと両脇の路肩を照らし出している。井原も加藤もすっかり寝てしまった。シャドリだけが前のめりにハンドルをしっかりと握り、路面を見つめている。

出発から十五時間経った夜の九時ごろ、ようやくオアシスの町オアルグラの灯りがぽつぽつと見えてきた。

ここから先に道はない。

「今夜はここでホテルに泊まり、明朝石油基地の人が我々を迎えに来らすたい。シャドリは明日我々と別れて、アルジェへ戻る」と、井原が言うと、

「またあの長距離を運転すっとか、ご苦労なこったい」と加藤がシャドリの肩をポンと叩いた。

八、 砂漠の映画館

井原と加藤は翌朝迎えに来た石油公団のエンジニアであるハリール氏と共に現場へ向かった。この御仁は前回加藤がハッシメサウドを訪問時に案内してくれたのと同一人物であり、車も同じレンジクルーザーだった。

オアルグラを出るとすぐに広大な砂漠となるが、ほぼ平坦で、砂も固く、走行に支障はない。

しかし三十分ほど走ると砂が波のようにうねってきた。車はうねりに翻弄されて上下左右に大きく小さく揺れ続ける。

助手席に座った加藤は前のグリップを、後部座席の井原は窓上のグリップと前の座席の背もたれの上を必死に捉まえて振られないようにする。