「死ぬなんて身勝手だぞ。戻ってきてちゃんと説明しろ」
金清が息を弾ませながら言った。経子は振り返り、両眼から零れる涙を見せた。
「ごめんなさい。梨杏まで死なせてしまって。でももう私、あの世で梨杏と幸せになりたいのよ。赦してください」
「経子さん、死なないで!」
一夏が叫んだ。経子は優しく微笑んだ。
「一夏ちゃん、今までありがとう。これからは梨杏の代わりに幸せになってね」
「経子さん・・・・・・」
その時、経子の背後の空に螺旋状の尾を引きながら光の弾丸が上昇し、見えなくなったと思ったら遥か上空で轟音と共に炸裂した。天空を支配するほど見事なオレンジ色の三尺玉の花が開き、展望所が明るく照らし出された。
その光の中で一瞬、経子が穏やかな笑みを浮かべたように海智には見えた。しかし、飛び散った閃光が萎れていく花弁のように地上に降りようとする頃、再び周囲は闇に包まれた。そこにはもう経子の姿は見えなかった。
「経子!」
金清が叫んで柵を乗り越えようとするのを二人の刑事が引き留めた。
「経子さん!」
一夏が悲痛な叫び声を上げた。それが大会最後の花火だった。夏祭りの終幕には似つかわしくない静寂が一帯を支配していた。
次回更新は7月6日(日)、11時の予定です。