海智が息を切らしながらやっとのことで展望所に着くと、人々が左右に道を開け、その真ん中に佐々木が立っていた。展望所は双亀岬の尖端にある舗装された広場で、周囲には木立もなく全方向太平洋を見渡せる人気のスポットである。海上から次々と打ち上げられた花火が目の前で炸裂するような臨場感があり、幻想的な夜の光景を作っていた。
展望所の周囲は鉄柵で囲まれている。経子はその鉄柵の向こう側の岬のまさに突端の岩場にこちらに背を向けて立っていた。その下は切り立った断崖で、海抜は優に百メートルはある。
「危ないです。こちらに戻ってください」
佐々木が叫んだが、経子は振り返りもせず足元の海面を見下ろしている。海智は鉄柵のぎりぎりまで近付いた。
「飛び降りるつもりなんですか?」
海智の声を聞いても経子は振り返らなかった。
「そんなことして梨杏が喜ぶと思ってるんですか?」
経子はしばらく身じろぎもせず黙していたが、ようやく海智の方を振り返った。
「小瀬木君、ごめんね。せっかくよくしてくれたのに。でもね、おばさんもう五人も殺しちゃったのよ。実の娘まで手にかけてしまった。どっちにしろ死刑ね。それならさっさと死んであの世で梨杏に謝ろうと思っているの」
「ちょっと待って。あなたには事件の説明をする責任がある。逃げるんですか」
「ごめんね」
経子は再び遥か下方の暗い海面を見つめ、震える足で歩を進めた。
「待て!」
その時男の掠れた大声が響いた。海智が振り返ると金清、一夏、田中の三人が息を切らしながら駆け寄ってきた。