【前回の記事を読む】「私の友達が車で遊びに来るの」そう紹介された、奈々さんの友達の伊藤さん。「本当は二人だけのほうがいいのだろうな」と思いつつも......

318号室の扉

初恋

フロントの女性が僕に話しかける。

「奈々さんも素敵だったけど、彼女のボーイフレンドも素敵な人だったわね」

伊藤さんが僕を可愛がってくれていたことも彼女は知っていた。その言葉を聞くと僕は条件反射のように、

「いや、伊藤さんは奈々さんのボーイフレンドじゃないよ!」と、呟く。

「あら、そうなの!?」

と、不思議そうな顔をして僕の顔を覗き込むと持ち場に戻っていった。今にして思えば、これは間違いなく私の初恋の思い出でした。

可愛がってくれた奈々さんはもちろん、伊藤さんのことも好きだったし憧れのような気持ちも持っていました。

でも、「ボーイフレンド」という言葉を聞いた瞬間、子供ながらに猛烈なジェラシーが湧いてきて、そうあってほしくない願望からか、つい「ボーイフレンドじゃないよ」の言葉になって出てしまったのでしょう。

楽しかった思い出、可愛がってくれた感謝、別れのつらさ、恋心などが、入り混じった、子供の頃の切ない気持ちが今でも鮮明に蘇ります。

壁打ちテニスが繋いだ隣人たちとのラリー

「バックハンドはスライスよりドライブを練習したほうがいい」

アジア会館の裏手の駐車場の突き当りは、隣家とのブロック塀があり、そのブロック塀を利用して僕は壁打ちテニスをしていた。