「大塩が与力のときも、咎人には同じ事をしたのであろうが?」

ああ、もうこんなのと関わっては自分が毒される。

「大塩様とあなたでは全く違います!」

そう言い捨てて、西田は形だけの会釈をして憤然と退出した。

「そりゃそうだ。官軍と賊軍なのだからな」

跡部はニヤニヤ笑いながらひとりごちた。

やるせない気持ちのまま、西田は牢番を伴って牢を見回った。こうなったらあのアホ奉行に叱責されてもいい。弓太郎の縄を解いて、滋養のある粥だけでも食べさせよう。そう決心し、母親に心配せぬよう申し伝える腹づもりだ。

だが西田が遭遇したのは座敷牢の中にうなだれているみねの姿だった。首筋には血が流れている。牢番が驚いて鍵を開けたが、すでに事切れていた。みねは舌を噛んで自決したのだ。西田が飛び込んでみねを改める。そのさまを同室の義母ゆうが悟ったような目で見ていた。

「おい、与力。ほっといたりぃ。武士の嫁の当然の務めや」

「…」

「ま、こんな婆あは辱めを受けることもないやろから、うちはせいぜいきばらせてもらうつもりやけどな」

夫の癖をなぞるようにニヤリと笑った。その言葉どおり平八郎の妾・ゆうは、一年間口を割らずに翌年獄死する。また自決したみねと格之助の長男である弓太郎のお仕置きは大坂永牢、すなわち無期懲役と決まった。

次回更新は6月28日(土)、11時の予定です。

 

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