大牢の向かいに位置する町奉行の詰め所で、東町奉行の跡部に白状記を提出し報告した。東西奉行とは場所の東西ではなく、月番で交代する便宜上の呼び名だ。今月は西町だが、この大事件には東西両奉行が責任者として采配する。

「大塩の身内は吐いたか」

白状記を斜め読みしながら、跡部が訊いてきた。

「いえ」と西田が答える。

「手ぬるいのではないか? もっと締め付けろ」

無論西田も連日不本意な拷問に掛けて、ゆうやみねを取り調べた。だがふたりは平八郎と格之助から突然離縁を言い渡されて、事件の間はずっと京都の親戚の家にいた。叛乱の詳細など何も知らされてはいなかった。

「おそらくは、大塩たちの居処も此度の件も知らぬものかと」

「どうしてわかる?」

この奉行は本当に馬鹿なのか?大塩様は家族に累が及ばぬように、仔細は告げずに離縁したに決まっている。自分でもそうする。だが、この男には家族や人の間に通じる機微など持ち合わせてはいないだろうな。西田は諦めて話を変えた。

「感心しません。幼子にまで手をかけるなど、武士のすることでしょうか」

「ほう。与力の分際で奉行に対して意見する気か」

「滅相も」

「国家に対する反逆は一族郎党にいたるまで極刑。やつらもそれは承知の上のはず。手を緩めるな」

西田は黙り込む。ならば、あんたが彼らを拷問に掛けろ。その恨めしい目を見据えてみろ。この〇△××野郎が。