【前回の記事を読む】「よかったわね、友達が来てくれて」無邪気な母親に「ちげーよ」と心の中で呟いた。友達は大事だけど、塾は唯一の居場所だったのに…

1 塾

受験不合格

今の自分には目標がある。従兄が通う私立の中高一貫校に自分も行きたいとずっと思っていた。学校には何人も外国人教師がいて、英語の授業はアメリカ人の先生が受け持つ。

カリキュラムも特殊で、夏には学校主催のサマーキャンプで留学体験ができると魅力的な話を聞かされていた。いつしか自分も英語が得意な国際人になるのだと夢見るようになっていた。

その夢のために四年生から塾に通い、晃たちの誘いを断り、みんながユーチューブやゲームの話題で盛り上がっても流されることなく自分の意志を貫いて勉強をしてきた。

だから、晃への苛立ちも逆に一段上から見下ろして許すことができた。そう、中学へ行ったら晃の影なんて誰にも言わせない。むしろここから自分の人生は目標に向かって輝き始めるに違いないのだから。そう自分に言い聞かせていた。

無我夢中で勉強するって、雑念が振り払えるんだな、そんな気持ちにすらなる自分が、自分で言うのもなんだが、誇らしい。

塾の先生も言う。

「小川君のこの成績なら大丈夫でしょう」

そうだよ。こんなに頑張ってるんだ。これで落ちるなんてことがあったら四年からの努力は何だったんだって話だ。

入試当日、健斗は試験会場の学校の正門に立ち、不安な気持ちになった。緊張のせいか、夕べはなかなか寝付けなかったのに今朝は随分早く目が覚めてしまった。正直寝た気がしないし、なんだか少し身体がだるい。

教室に入って座席表を見ながら席に着く。頭がぼんやりしてはっきりしない。緊張するとこんな風になるんだな。気を引き締めなくちゃ。ここまでやるだけのことはやってきたんだ。そう自分に言い聞かせて深呼吸をする。

長い試験が終わり、会場を出ると外では受験生の家族が待っていて、その人ごみの中から健斗の母が駆け寄ってきた。

「どうだった」と健斗の顔をのぞき込む。

「ちょっと、健斗、あなた何でそんなに青白い顔してるの」と悲鳴にも近い声がして、そこからの記憶はない。