【前回の記事を読む】美術教師が見せてくれた、祖父の所持品だったというスケッチブック。そこに描かれていたのは…「これって?」「ゼロ戦」
3 美術
みんなと違う自分
洋子が教員室へ配布物を受け取りに入っていくと、教員室ではいつものように沼山が大きな声でデリカシーのない言葉を吐いている。誰が標的なんだろう、なんて思っていたら晃がすごい勢いで出てきた。
すれ違いざまにクシャクシャのプリントを落としていくのが見えて、手に取ってしわを伸ばしてみると、数学の補修用プリントだった。教員室から沼山の甲高い声が追ってくる。
「そんなんだから成績上がんないんでしょ」 ――山口君、嫌だろうな。
教室に戻るとプリントをきれいに伸ばして端に「がんばれ」と書いてみる。いや、それもきっと嫌だろうな。「落とし物」と書き直して置いておく。
自分の席に着いて一人、ぼんやりと晃の席を見る。ざわついた教室の中にいる自分。周囲では女子たちがいくつかのグループに分かれて喋っている。
――だれも私に気づかない。
このざわついた教室の中で、自分だけ誰かとつるんだりもせず、一人で席に座っていることに少しだけ心細さを感じた。寂しいんじゃない。
ただ一人でいるということを誰にも気づかれたくない、そんなことを心配して不安になってしまう。一人でいると周囲から友達がいない子に見られる。正直そういう目で見られることが怖くて、一人でいると不安になる。
気にし過ぎ。きっと誰かに話したらそう言われるだろう。
中学生になってから、なぜか周囲に溶け込めなくなったのは自分。
違う小学校から来た子たちから囁かれたのもきっかけになったのかもしれない。
「何、外国人? 日本語喋れるの?」
「ハーフじゃね?」
悪気があるわけじゃない。ただの好奇心。でも、好奇な目は人を傷つける。小学校の時は何も気にせず普通にみんなと遊んでいた筈なのに。
晃が入ってきて自分の机に置いてあるプリントに気づく。ちょっとドキドキしながら見ていると晃は「ちっ」と舌打ちしてプリントを無造作に机の中に押し込んだ。
そうか、そうだよな。「落とし物」と書かれた文字が洋子の字だとわかるわけがない。あたり前と思いながら、なんだかちょっとがっかり。
――私の字だって気づかないんだ。私に関心がないからなぁ。
そんな思いがふと出てくる。晃には自分から何度も声をかけているし、美術の時間には晃の絵にも関心を寄せて話しかけているけど、晃から自分に声をかけてきたことは一度もない。
誰でもってわけじゃないけど、自分が関心のある人から関心を持ってもらえないっていうのはちょっと気持ちがへこむ。そんなことはありがちなことだって、わかっている。特別なことじゃない。
加奈が晃をからかって親しそうに見える。いつも二人の会話は楽しそうだ。あんな風に、どうして自分は自然体で話せないんだろう。
――私は、たぶん自然じゃないんだ。
そんな思いが深いところに根を張る。自分は普通じゃないのかもしれない。みんなとちょっと違うのかもしれない。そんな気持ちがだんだん大きく膨らんでくると決まってこんな囁きが聞こえる。
――消えてしまいたい。
その日の休み時間、加奈が急に洋子に話しかけてきた。特に用があるわけではないらしく、加奈が好きなドラマの話や、お気に入りの音楽の話をしてくるのだが正直、洋子はあまりよく知らない。
でもせっかく話しかけてきた加奈の期待(?)に応えたい気持ちもあって話を合わせる。いまひとつ盛り上がらないことにちょっとだけ焦りを感じる。そもそもなんで加奈が急に話しかけてきたのかも謎。それでもお互いちょっと無理しながら話し続けていると、加奈の親友の友美と、いつもかたまっている数人の女子が集まってきた。