【前回の記事を読む】中学受験の不合格通知は自分より先に親が見た。当日体調を崩し「なぜ運は俺の味方をしてくれなかったんだろう」と考える日々
2 中学生
微妙なバランス
チャイムが鳴って制服姿の生徒たちが教室に入ってくる。その中に晃と悟、そして健斗の姿がある。一番後ろの席に洋子が座って本を読んでいる。
悟はちょっと落ち着かなげにクラスを見回した。制服姿は、小学生の時とはすべてが変わって見えた。みんな急に大きくなったような感じもするし、制服の着こなしで大体どんなタイプなのかもわかる。晃は前ボタンを外して少しだらしなく着るし、健斗はボタンをキッチリ留めて隙がない。同じ制服を着るとその違いがはっきり見て取れた。
悟は廊下にある大きな鏡の前を教室移動で通る時、全身鏡に映った自分を見て、思わず立ち止まった。
――そっかぁ、こんなに違うんだ。俺たち。
晃も健斗も気にした様子もなく、そのまま通り過ぎていく。
悟は鏡を見ながら晃のようにちょっと着崩してみる。でも身長がなくて童顔なせいか制服に着られて逆に幼い感じがする。きっちり着ると、これまたピカピカの一年生だ。
口にはしないが、晃にも健斗にも自分が子供じみて見えているんじゃないかと思わずにはいられなかった。
それはちょっと悔しい。
健斗が受験に落ちた時「中学でもよろしくな」とさりげなく言ってきた姿になんだか威厳みたいなものを感じて、急に健斗が大人になったような気がした。よく人の成長には個人差があるとは聞いているが、それをはっきり目の当たりにした瞬間だった。晃の制服姿は身長があるせいか、かっこよく見える。入学してすぐに女子が寄ってくるのもわかる。
だけど、自分には何もない。背も高くないし、特に運動や勉強ができるわけでもない。なんか、ただはしゃいでいるだけの子供っぽい存在な気がしてきてしまう。そう思ったからって簡単に背が伸びるわけでもなければ、自分が変われるわけでもない。そもそも、どうすればどんな風に変われるのかもわからない。
晃と健斗と一緒にいるこの自分って、どうなんだろう。なんだかどんどん変わっていく二人にくっついて行ってるだけの自分なんだろうか。そんなのは嫌だ。こんなこと思っているのは自分だけかもしれない。
きっと自分が何を思ったところで三人は仲良しに違いないし、傍から見たらいつも一緒にいて楽しそうに見えているのだろう。今まであたり前に過ごしてきたことなのに、それがなんだか急に置いて行かれるように感じてしまう今の自分が少し惨めだった。