【前回の記事を読む】「――え、何、俺が悪いの?」あいつと喧嘩している自分と仲良くするのはマズイというオーラが出まくっていて…
1 塾
受験不合格
友達は大事。いなきゃつまらないし、心細い。ずっと一緒でも飽きない気もする。
だけど、気がつけば結構疲れていたりもする。仲良しだけど、長くいれば嫌な面が気になり始める。気になったことは誰かに言いたくなるけど、それはただの悪口。仕方ないよね。
気になることって、だいたい自分にとっての違和感で、嫌なことだから気になるんだから。でも、もし相手がクラスの人気者だったら、そいつの悪口を言った瞬間オシマイ。
だから健斗にとって塾はちょっとした心の休憩所だった。学校の知り合いはほとんどいない。それもそうだ。電車に乗るほど、わざわざ遠くに通っているんだから。
ここでは晃の影でなく、悟がどっちの味方をするのか気にすることもなく、自分のままでいられる。塾の友達はせいぜい塾での付き合いだ。お互いの学校での生活なんて気にもしてない。ここが自分の居場所。そう思っていた。
それなのに、親が勝手に晃や悟の親にこの塾を紹介してしまった。
「前々から紹介してほしいって言われててね、今なら友達紹介でキャッシュバックもあるから紹介したのよ。二人ともとっても喜んでたから、入塾すると思うわ」
「晃は塾なん行かないって言ってたよ」
自分の声が冷たい気がした。入ってほしくないというほど強い気持ちがあるわけじゃないんだけれど、一縷(いちる)の期待を持って入らないでほしいと思っている。
「悟君のママは入れるって言ってたわよ」
「え」
「晃君のところは晃君に聞いてみるって言ってたけどね」
唯一、自分の居場所だったのに。健斗は二人が入ってくるかもしれないと思うと、余計塾に来てほしくない気持ちが強まるのと同時に、ちょっと後ろめたさを感じた。
なんだか学校では仲の良い友達面してて、でも塾には来てほしくないって、それってなんだか俺が嫌な奴みたいじゃないか。ただ自分の居場所を確保したいだけなのに。こんな気持ち、晃や悟が知ったらどう思うだろう。