やっぱり嫌な奴だと思うんじゃないかな。健斗は心の中がざわざわした。
「そうそう、そういえば西野さんも入るって言ってたわね。あの子できるんでしょう?」
あああ、どんどん知り合いが増えていくじゃないか。自分のテリトリーが侵食される。
「よかったわね、友達が来てくれて」
無邪気な母親に「ちげーよ」と心の中で呟いた。子供の無邪気さは可愛いが、こういう親たちの考えなさは時に罪深い気がする。
何か言っても「気にするな」と簡単に片づけられてしまうけど、子供世界のデリカシーなんてものは見えていない。
夏期講習。晃と悟が入塾して、洋子もいて、急に学校の延長線になったような気がした。なぜ親たちはみんなこの塾に通うと成績が上がると信じて期待するのだろう。
とはいえ、なるようにしかならない。悟も晃も、もう入塾したのだから。仕方なく三人で通い始めると、一緒に電車に乗って通うのもそんなに悪くないなと思った。
学校から帰って遊べなくなった分、この時間が遊びみたいなもんだ。帰り道にコンビニに寄って買い食いしたり、寄り道するのも、ちょっと立ち止まって無駄喋りするのも楽しかった。大体はいつも晃の行動に従っているだけだったけれど。
晃は自分が楽しいと思っていることはみんなも一緒だと思っているようだった。今までそれに不満を言ったことはない。
けれど、一緒に塾に通い始め、時間が経つにつれ健斗は少し苛ついてきていた。なぜなら塾で見る晃は学校で見る晃と違うことに気づいてしまったからだ。
学校では晃に頭が上がらない。だけど、塾では自分の方が前からいて、友達もいる。しかも特進クラスで晃はBクラスじゃないか。そして明らかに晃は自分に遠慮している。そんな後から入ってきた晃が三人の時だけ学校と同じように振る舞うのは面白くなかった。
廊下に成績が張り出される度、晃の順位を確認してちょっと意地悪な気持ちと苛立ちを感じずにはいられなかった。
ただ、学校で過ごす時間が長いだけに晃に対して芽生えた不満を口に出すわけにはいかなかった。それに今はそんな感情に振り回されているわけにはいかない。
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