【前回の記事を読む】ホンボシは誰だ?ゲイバー『グラディエーター』に通う大使館員・ジョセフの動向と謎の第三の人物に迫る
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「そうすると、飯島は金銭的に困ることはなかったんですね。豪華なマンション暮らしも出来たわけだ」
田所刑事の報告を聞いた草薙は、金銭関係のトラブルは当て外れだったかという思いで言った。
「そうです。もともと資産家だったようですが、祖父から引き継いだ父親の会社もなかなかの羽振りで、相当の仕送りがされていました」
田所刑事は、難しい銀行の聞き込みまで行なってウラを取っていた。
「同性愛の問題は勇み足だったし、金銭トラブルもないとなれば、国枝にえらく気に入られていた飯島には国枝社長を殺すほどの動機はないということになりますね」
年上の田所刑事に向かって話す草薙の言葉遣いは相変わらず丁寧だ。
「少なくとも、金銭のトラブルが動機じゃなかったことは確かです」
「そうすると、長じてからいろいろ不幸はあったようだけど、お嬢さん育ちでもあるし、あのひ弱そうな飯島の線はやはり可能性がないですかね。取調中に見せた態度の急変は、もともと切れやすいタチということかな」
草薙が得心したような言い方をした。