【前回の記事を読む】未だ正体が分からない"第三の容疑者"。接点はあるのか?中米小国の大使館員の身辺捜査が密かに続けられ…
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「実際、新宿二丁目にはオカマバーやゲイバーが、そりゃもうわんさかありますよ」
「オカマバーとゲイバーは違うのか?」
「はあ? どうだっけ? 原」
「基本的には同じものですが、通常、オカマバーはオープンな感じで、明るく大騒ぎをして、時にはセクシャル・マイノリティーだけじゃなく一般の人も一緒に楽しむ雰囲気の店。それに対してゲイバーは、セクシャル・マイノリティー同士がしんみりと二人の世界を楽しむ雰囲気の店。定義があるかどうか分かりませんが、そういう感じでしょうか」
「それで、ジョセフが出入りしている店は分かったのか?」
「はい。ある程度の社会的地位がある人達は、女性や一般の人が顔を見せることもあるオカマバーより、似た者同士が集まる静かなバーに出入りするようです。ジョセフの行きつけも、ご多分に洩れず『グラディエーター』というそうしたゲイバーの一つであることを確認しました。その方面では結構有名な店ということです」
この原の報告に、木村がさらに付け加えた。
「店員や店の客への聞き込みをして、そのことがジョセフに知られると厄介なことになりますので、今のところは張り込みで第三の人物を探しています。
先週ジョセフが新宿二丁目に行ったことを確認していますが、その時には、防犯カメラに映っていた例の男の姿は見られませんでした。それから今日までは収穫はありませんが、今度の週末にジョセフがまた店に出入りすればチャンスがあると思います。
その時にもこの男の影がないとなると、この第三の人物とジョセフの関係は薄い、と言いますか、関係はないと言ってもいいかもしれません。なんせ、ジョセフは新宿二丁目以外に世間との接点がほとんどありません。
事件以降は騒ぎになっていて、さすがに自宅マンションでは会えないでしょうから、ここで会うしかないんじゃないかと思われます。第三の人物が大使館関係者でないことも確かめましたので、もしこの男がジョセフとは関係がないと分かれば、いよいよこの男がホンボシと思われますが」