【前回の記事を読む】殺害犯の可能性がほぼ消えた第三の人物だったが、刑事たちは最後の詰めをしにその男のもとへと向かっていた

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「よく、覚えていますね」

「当たり前よ。刑事さんが探しているって聞いてから、あの日の事を何度も考えてみたもの」

「ジョセフさんの部屋に行くまでに、誰か見ませんでしたか?」

「誰にも会わなかったわ。人に見られないように、遅い時間に行って階段を使っているんだから。ただ、いつだったか三階のエレベーターホールの横の階段を上がる時に偶然エレベーターから降りてきた男の人と顔を合わせたことがあって。だからヤバいと思ってたの」

「ヤバいって?」

「あたし、犯人にされているんでしょ。怪しいもんね。事件の日にマンションに行ったことは防犯カメラでバレてるし、マンションでは四階に行ってることもバレてんだからほんと怪しいよね。でも、絶対に関係ないわよ。あの日もジョセフの部屋に行って、それから朝まで居たんだから」

「亡くなられた国枝さんに会ったことは?」

「全然知らないわよ。絶対に人に会わないようにしていたから。ジョセフにそうしろと言われて、わざわざ夜の遅い時間に行って、朝、早い時間に帰ってたから」

「事件の日、何か物音がしたり変わった事はなかったですか?」

「変わった事もなかったし、何にも気が付かなかったわ」

「ずいぶん長い時間ジョセフさんの部屋にいたようですが、何をしていたんですか?」

二人で共謀して国枝殺害を企てた可能性もないわけではないと思い付いた原が、木村に替わって訊いた。